花に嵐のたとえもあるぞ [小野未練] 反面教師 (快楽天 2025.07)

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copyright 2025 ワニマガジン 小野未練

タイトル反面教師
作者小野未練
掲載誌快楽天 2025.07
ページ数24
ヒロイン黒原公子
竿役日向
発射数1
公式タグしつけ / フェラ / ショートカット / 中出し / 女教師 / お姉さん / 恋愛 / 淫乱 / 陰毛
修正白抜き修正

引き続き快楽天から、小野未練先生の感動作品をご紹介したい。泣ける。ティッシュのご用意を。

大トリ

本作の内容に触れる前に一言。komifloをそれなりに長く見てきた者として、ランキングなどの人気に一番影響するのは何より掲載順である。紙雑誌はパラパラめくって目に止まった作品で致すことが少なからずある。配信の場合は画面サイズにもよるが、とにかくマガジンラックの初期画面内に見える作品が強い。さらにスクロール1回で届く範囲と、2回3回必要な範囲でもリーチが段違いだ。ネットショッピングなどでもこれは死活問題なので、表示更新ごとにランダムに並べ替えるサイトも少なくない。掲載順の問題は非エロの漫画でも同じことではあるが、エロ漫画は「抜けたら閉じる」、用が済めば後続を読まない読者は多いだろう。仮に読んだとしても、賢者の評価は当然厳しくなる。ただでさえエロくて面白い看板作家が前にズラリ並んで精力を絞ってくるなかで、後半に登場する新人含めた作家陣はなおさらエッジを利かせる必要がある。小野未練先生の本作は掲載順最後なんと大トリである。作品を解説した上で最後にもう一度触れたい。

許さなくていいんだよ

舞台は冬。本作ヒロインはウェーブヘアが麗しい黒原公子きみこ先生。現代文担当の高校教師である。以前も触れたことがあるが、今の学習指導要領では「言語文化」「文学国語」という科目名だ。なお本作のエロシーンまでの時間軸は回想である可能性もある。竿役は教え子である日向ひゅうがくん。眼力強めの好青年だ。日向君は10コ年上の彼女を「公子ちゃん」と下の名前で呼び、求愛を続けていた。日向くん一年の2学期、河井というクラスメートと喧嘩した時に公子が校舎裏で励ましたことがきっかけだった。河井というやつ(性別不明)は公子ちゃんから見ても、あからさまに日向にだけ嫌な態度を取っていた。それに腹を立てていた日向に「人間誰しも色んな一面がある」と諭した上で、「誠実に接してくれる人に誠実さで返せればそれでいいんだ」「だから別に許さなくていいんだよ」と日向の憤懣を肯定した。当時まだ黒原先生呼びだった日向は、公子がわざと「教師らしからぬ一面」を自ら見せるところに誠実さと親近感を感じた。それが憧れに変わった後も日向は誠実に公子ちゃんに向き合い続けていた。しかしその日は違った。公子ちゃんが応じたのだ。後日、大宮駅前で待ち合わせる二人はロングスカート姿のデートコーデだった。心の整理が出来ていない日向だったが、誘ったのは他ならぬ自分であり、デートの形に応えてくれた公子ちゃんに対して距離を取るのは誠実では無い。日向は腹をくくって10コ上の教師とのデートをやり切る決意を固めた。

知りたいその秘密ミステリアス

日向は困惑しきりだった。憧れの対象だった公子ちゃんの距離が近い。普通に腕を組み、クレーンゲームでもペットショップでも可愛いカノジョのように振る舞っていた。喫茶店に入った公子は日向の若さにあてられたのかクリームソーダを注文し、あどけない顔でチェリーを口にした。公子さんが口火を切る。「…あのさ おまえほんとに あたしのこと好きなわけ…」。この質問に日向は「好きですよ」「でもそれ以上に憧れなんです」と正直に答えた。日向にとって公子ちゃんは「『こういう風になりたい』って思う大人」だと。これが二人の決定的な分岐点となることを日向はまだ知らなかった。異性として好きだという回答であればこのまま細く長く繋がっていたのかもしれない。高校生が年上の異性、まして教師に期待と憧れをもって崇拝することはままあることだ。夜道、「今日のこと死ぬまで忘れません」という敬虔な信者の賛辞を、大切にしていた偶像を試すように壊すように、公子は腹の内を見せた。

その瞳がその言葉が嘘でもそれは完全なアイ

「2ヶ月くらい前に父が倒れて」「教職以外の資格も趣味で結構取ってるし」どれが真実かは分からない。しかし来春から実家に戻って仕事をする、そのために教師を辞めることは事実だった。そして今日は「やり残しを済ませに来たんだぁ…」と日向の左手を掴んだ。

ここから基本的に日向視点での葛藤が描写される。公子ちゃんに手を引かれてラブホに入るところまではエロ漫画的に純愛の範疇である。しかし公子ちゃんの反応は日向の理解を超える。仁王立ちフェラからのイラマチオ要求。13ページから14ページの公子の懇願をノーカットで引用する。

ねえ ひゅうが がっかりしたよね ひいたよね あこがれのひとが こんなまぞのへんたいで うらぎられたきぶんだよね ゆるせないよね おしおき して? もう あともどりできないくらい いっぱいいじめ…

誠実に接してくれる人に誠実で返せればそれでいい、そう言ってくれた人だった。逆説的ながら、「教師である黒原公子が日向の求愛に応じないこと」に職業倫理的な大人の誠実さを日向は感じていた。そんな公子が日向の思いに応えてくれたこともまた、戸惑いつつも自分の敬愛に対する誠意だと信じていた。しかし教え子のチンコを咥えて股を開く変態マゾ行為を前にして、これを誠実さと受け止めることはまだ日向には出来なかった。崇拝さえしていた対象が、それを知りながら、自ら尊厳を破壊するさまに日向はやり場の無い怒りを感じた。一方で、それが何であれ公子が望むのであれば、己を殺してでも応じるのが公子への誠意だとも思えた。二つの感情の行き先は同じだった。日向は無造作にチンコをブチ込み公子を精一杯罵倒した。17ページ、まだ若い生徒の顔をした日向が恩師にもう一度だけ真意を問うた。公子はそれに応えず、教師としてあるまじきメスの顔で首締めを促した。日向はもう止まれなくなっていた。許せなかった。全てを股間に打ち付け、中に出した。

誰よりも強い君以外は認めない

本作には長めの事後がある。「満足かよ」日向は再度問う。22ページ、やり残し・・・・を済ませた公子が教師だったころの口調で誠実な回答をする。

…幻滅 してほしかったんだ 私を一番好いてくれてるおまえに 一番どうしようもない面を見せて もう先生に戻りたいって 思わないで済むように

日向は幻滅に値するだけの尊敬と誠意を自分にぶつけてきていた。だからこそ日向でなければならなかった。そして同時に、これが公子の日向への愛の形だった。去りゆく自分のことを、日向の心に深く爪痕を残したかった。誠意を裏切ることで、一生自分を許さないでいてほしかった。必ずしも本意では無い決別への抗しがたい心残り、そう、「未練」である。

誰かの未練は誰かを突き動かす原動力になる。日向は公子の未練に応えた。1年後、和仁大学教育学部、教師への一歩を進めた日向はそのことを笑顔で実家の公子に伝えに訪れた。公子が捨て去った教師としての尊厳を諦めずに1年かけて拾い集め、また違う形で公子に返しに来た。「俺は公子のように諦めたりはしない」。幻滅を原動力として昇華すること、そう、これが「反面教師」だ。

花に嵐のたとえもあるぞ

公子ちゃんは国語教師である。23ページ、「さよならだけが人生だ なんてさ 言うだろ…」という涙を流しながらのピロートークが飛び出した。元ネタは「勧酒」という次の漢詩(五言絶句)である。金屈巵というのは金のジョッキを指す。

勸君金屈巵  君に勧む金屈巵こんくつし
滿酌不須辭  満酌辞するをもちいず
花發多風雨  花ひらけば風雨多し
人生足別離  人生別離足る

この漢詩に下の名訳をつけたのが井伏鱒二だ。3句目、4句目が特に有名で、この名言から着想した寺山修司が作品をものした。19ページの回想シーンに「山椒魚(井伏鱒二の短編小説)」「寺山修司」の板書があることから授業でも触れていると思われる。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
「さよなら」だけが人生だ

この名訳のため「惜別の杯」という印象が強いが、本詩には単純に「後のことなど考えずに酒宴を楽しもうぜ」という解釈も存在する。

ラスボス♡降臨

AVや同人では必ずしも存在しない商業エロ漫画の「事後」描写は、一旦エロシーンを片付けて次の作品世界にスムーズにつなげるようにするためと私は認識している。つまり単話ではなく雑誌一冊としての完成度のためと考えている。私が「箸休め」と読んでいるギャグ枠も同様だ。しかし配信では必ずしも前から順に読むわけでも無く、惰性で次の作品に流れるとも限らない。このためかエロの無いギャグ漫画連載は減っているように思う。一方で配信だと連載作品を月またぎ通しで読めるため、次回作へののりしろのような「片付いていない事後」も増えている。

本作の事後描写は、べつに涙の離別シーンで終わっていても形になっている。小野未練先生の前作「ピアノどろぼう」は関係性が必ずしも解決しておらず湿度の高い余韻で普通にオチている。本作はそこからさらに一歩進んだ先、二人の明るい未来を匂わせるところまで描かれている。この上ない鮮やかな読後感でコメント欄も賛辞の嵐である。快楽天は今でも紙媒体での販売を続けており、冒頭書いたように本作は大トリだ。最近だと新人作家や過去作の再掲が入りがちなポジションである。本作はもっと前の掲載順に載るべき、アテンションの高い作品だろう。もちろん事情を知るわけでも無い。しかし雑誌全体を通しで読んで一つの完成品と捉えるならば、エロを超越した読後感の強い本作を大トリとするのはこの上なく納得感のある采配だ。紙雑誌に限らず、本作のような重厚な作品がスクロールの末尾に鎮座しているとなれば、中間には位置されるギャグ枠や小ネタ色モノ、新人作家への注目も上がるに違いない。エロ漫画としては明らかにオーバースペックと言えなくも無いが、性器で読み、頭で読み、そしてハートで読む、雑誌のシンガリ役としての可能性を感じさせる、頼れる小野未練先生の名作に惜しみないいいねを贈ろう。

小野未練先生の作品はこちら!!

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