未練、打算、逡巡、そして悔しさ [亜美寿真] 別つ時 (快楽天 2024.05)

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copyright 2024 ワニマガジン 亜美寿真

タイトル 別つ時
作者 亜美寿真
掲載誌 快楽天 2024.05
ページ数 22
ヒロイン 高晃
竿役 けい
発射数 1
公式タグ 中出し / 巨乳 / 金髪・茶髪 / 陰毛
修正 白抜き修正
本日は亜美寿真先生の作品をご紹介したい。先生自らSNSで反応を気にされるほど少しデリケートなストーリーだ。丁寧に説明したい。
 

クリスマスケーキ

本作はヒロインのけいちゃんが、2年付き合った高晃の部屋に別れを告げに行くところから始まる。出逢いは街コンとのこと。いわゆる「クリスマスケーキ」の年齢を過ぎたけいちゃんが焦って参加した街コンで、「遅刻した同士」という馴れ初めだ。本作はヒロイン目線なのでこれが偶然か、高晃の作戦なのかは分からない。選別会場に入る前の獲物を口説いて一本釣りするというのはお行儀悪いが成功率は上がりそうだ。結果ふたりは意気投合し、2年も付き合い続ける。しかし悲しい事に、高晃には生活力というか甲斐性が無かった。けいは愛想を尽かして別れを決め、同棲していた彼の部屋に荷物を引き取りに来たのが扉絵である。「金なし、定職なし」と書かれているので、バイトなど全くの無収入では無さそうだし、出て行くけいちゃんに今後の生活の無心をしている描写もない。とはいえ今後を考えるとアラサーけいちゃんとしては大台を越える前に再挑戦したいだろう。本作を通して彼女のモノローグはためらいを隠そうとしない。
 

未練、打算、逡巡

男女の別れを題材にしたエロ漫画は少なくない。ただ多くは相手側に非があって別れる以外の選択肢が見えない、ないし助けてくれた第三者の方と恋仲になるような展開が多い。本作は率直に言って「高晃の甲斐性の無さ」以外に非の打ち所がない。けいちゃんの回想でも金を使い込んだり暴力を振るったりといったテンプレ的な冷めエピソードがない。そして何より高晃に他の女の影が微塵もなく、本人も感情的にならないまでも未だにけいちゃんを愛しているように見える。男女が逆であれば「生活力のない女を介護する男」の話はエロ漫画に限っても決して少なくない。けいちゃんは見る限り仕事はきちんとしていそうで実際2年にわたって大きな問題は特に描写されていない。あくまで「けいちゃんに高晃を養う気がない」だけとも言える。別に悪いことだと言うつもりはない。本人同士の意思の問題であり、既に何回も話し合ったのだろう。ただそれが故に、本作には高晃を突き放す決め手がない。上記の通り、普通ならわざわざ竿役にクソエピソードをトッピングして認知的不協和を解消すれば良いだけだ。しかし亜美寿真先生は敢えてそうしなかった。今も愛が冷めやらぬ、出来ることなら一緒にいたい、それでも高晃を自分の人生の重荷とし背負う覚悟は無い、3週間泣き尽くしてもなお残るけいちゃんの未練、打算、逡巡、そして「悔しさ」を読者に投げかけている。そこが読者にとっても重く、深いのだ。
 

けいちゃんの傷

7ページ、「私が傷ついてる時 とびきり優しいのやめてよ」というけいちゃんのモノローグ。このシーンを見ても、やはり高晃のことをどうしても責められないのが分かる。彼の優しさに惹かれたにもかかわらず、それ以外の何かを求めて彼を捨てる自分。「結婚」「子供」「一軒家」「世間体」何かの詳細はおそらく本人にもはっきりは分からない。高晃を捨てた先に欲しいものが手に入る保証もない。それが「焦り」となり、高晃への「苛立ち」となり、破局へと至った。しかし彼がそういったものを望んでいないのは悪いことではない。高晃がけいちゃんに与えたものは優しく、温かく、正しいのだ。最後まで彼氏として善くあり続ける高晃を切り捨てる判断こそ、けいちゃんの「傷つき」であり、斬って捨てようとしている相手に優しく抱きしめられることが苦しくて仕方ない。そしてエロ漫画なのでここに「性としての求め」も加わってくる。高晃を癒してあげたい、自分も癒されたい、心で「やめて」と叫び続けるなか彼の甘い指を受け入れた。
 

高晃の傷

もう一歩踏み込むと、高晃もまた元々そういう人間ではなかったのかもしれない。彼もまたけいという彼女の優しさと性愛に触れ、朝も夜も家じゅうでセックスにふけり、彼女に依存し「堕落」してしまったのかもしれない。本作はヒロイン視点で進行しており、高晃はほとんど感情を表に出さない。しかし荷物をまとめて出ていこうとしているけいちゃんへの愛はブレていない。繰り返すが彼には明確な非がなく、おそらく彼もまた3週間泣き続けていたのだろう。本作の展開も胸が張り裂けそうに辛い。でも彼女を悲しませるようなことは言えない。口から出てくる言葉は哀願でも罵倒でもなく、優しい甘い囁きだった。共依存のような関係で、彼がここまで壊れてしまったのは哀しいことだ。
私は意外と高晃の社会復帰は早いと思っている。彼が真性のヒモであれば何も街コンまで漁りに行く必要もなかったろう。けいちゃんが居なければ居ないなりに、そして居てほしいがためにあっさり就職の一つは決めてきそうな気もする。そして再びけいちゃんに懇願するだろう。むしろその間に、けいちゃんが身を固めている危険性の方が高い。彼女はラスコマのキスに甘んじるのだが、決して未練がないわけではなかろうが、それでも切り替えて前へ進む強さがある。あっさり決まらなければ元鞘なのだろうが、フリーだと分かった瞬間に職場で食いつかれれば彼女は止まらない。その時が本当の「別つ時」になるのだろう。

あらすじ

けいは2年前の街コンのエレベーターで偶然居合わせた高晃に運命を感じ付き合い始める。しかし彼は定職に就かず結婚は難しそうだ。アラサーが近づいてくる中、彼女は高晃と別れる決断をする。高晃に別れる気はなく、同棲していた時の荷物を送ってほしいと高晃に伝えても返事がないため、意を決して高晃の家に乗り込む。

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ななまん

1,210円

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