絶望と向き合うエロ漫画 [監獄銘菓] 夜に掛ける (失楽天 2023.04)

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copyright 2023 ワニマガジン 監獄銘菓

タイトル 夜に掛ける
作者 監獄銘菓
掲載誌 失楽天 2023.04
ページ数 30
ヒロイン 叶愛(かな)
竿役 僕・田中さん
エロページ位置(割合) 8 – 28 (70.%)
発射数 4
公式タグ ツイン・ピッグテール / カップル・夫婦 / キャバ嬢・風俗嬢 / 巨乳 / ダーク系
修正 白抜き修正

ネタバレを含みます。先に一読されることをおすすめします。

本作は監獄銘菓先生が自らkomifloコメント欄にて解説を施すほどには難解な作品である。全てを語る以外に本作の理解は出来ないため、本稿はあらすじも省略させて頂く。可能な限り丁寧に解説させて頂きたい。

あらすじに代えて、全体の要約

まず先に全体の流れを説明する。場所は夜の法師人町一番街(法師人は「ほうしと」ないし「ほしと」と読む)、日本最大の歓楽街である歌舞伎町のイメージだ。本作のヒロインである叶愛がビルの屋上で缶チューハイWanirong Zeroをストローで啜っている。ここで缶を残してカットが途切れる。場面が変わって朝の住宅街、幸せそうな人妻姿の叶愛が夫を仕事に送り出し、幼稚園に通う娘に夕餉のリクエストを受けている。幸せそうな家族の光景、娘を寝かしつけた後、夫から身体を求められる叶愛。相思相愛の濡れ場が始まる。13ページから夫の態度が冷たくなり、叶愛がすがりついて性奉仕しているように映る。16ページ、それでも愛の言葉を囁いてくれる夫にときめく。20ページでまた場面が変わり、ソープの一室で田中という客に奉仕する。口では客への愛を囁くが、心底では嫌悪感しか無い。そして27ページから場面が入り乱れ、誰の何のシーンか分からないまま冒頭の倒れた缶に戻る。二人の男が出てくることは分かったが、何がなんだか分からない。これが本作を読んだ第一感だと思う。

本当の時系列

監獄銘菓先生自身が寄せたコメントによる本作の流れを文言通り書き写す。

飛び降りる▶幸せな夢を見る▶覚めてきて現実に近づく▶死ぬ

つまり時系列的には2ページ目の次点で叶愛はビルの屋上から飛び降りており、この時系列内のコマは30ページの倒れた缶しかない。正確には同じく2ページ目で手帳のようなものが宙を舞い、30ページで倒れた缶から漏れ出る酒を被っている。これは現実なのか幻想なのか定かでない。内容的にはホストに入れあげた叶愛(いわゆる「ホス狂い」)の日記帳のようだ。中に誕生日のシャンパンタワー(どちらの誕生日かは不明だが、おそらくホストのだろう)と、ラスコマのホストとのツーショットの写真が入っているのだろう。つまり本作前半は「オキニのホストと幸せな家庭を築いた自分」の未来設計図らしい。エプロン姿は彼女の考える幸せな自分(おそらく専業主婦)の理想像で、娘はおそらく自分の幼少期の投影なのだろう。娘はよく似ているのだが、笑顔がなくご飯も食べない。娘の存在が自分の中で解像度を持っていないということなのだろう。ホストにだっこをせがむところだけ笑顔なのも、娘が自分のアバターである暗喩なのだろう。同時に、ホストが自分の使ったハンバーグを食べてくれないのも、実体験として入っていないためだろう。

理想像が崩れゆく瞬間

娘が寝静まった後、「ホストの方から」ご無沙汰だとHをせまる。これも願望なのだろう。ただ夕食と違いセックス自体は体験があるようだ。ご無沙汰だった(叶愛にとって)のは事実だろうし、ホストに言われた言葉も事実なのだろう。白抜きなのでよく分からなかったのだが、12ページでゴム着だとわかる。夫婦の設定で子供まで居るのに生エッチの経験がない、そこで認知的不協和が生じたのか、ホストが「二人目が欲しい」と言い出す。ここが監獄銘菓先生のいう「覚めてきた」の端緒だろう。ホストがそんなことを言うはずがないし言われたこともない。また不協和の解消のため、ホストが携帯を見ている中で叶愛側が奉仕して二発目をせがむ描写に変わる。15ページ、ホスト側が叶愛に好きだと言う。夫婦になったのにそんなこと言うだろうか? 叶愛に疑念が生まれる。思わず「不安なの?」「ちゃんと大好きだよ?」と叶愛がホストに確認する形で、叶愛が自分に言い聞かせている。

中出しをされたあと、「汚れたからお風呂に入ろう」言われる。この「中出し」という行為には経験の裏付けがある。そう、叶愛の「現実」であるソープでの一幕だ。「風呂に入る」という言葉を反射的に拒絶する。そして「一日に何度も入ると肌が乾燥する」というソープ嬢でしかない(幸せな専業主婦が何回も風呂に入る訳がない)現実が漏れてしまい、走馬灯が現実へとスイッチする。この客は田中と名乗っているが、複数の客の人格が混ざっていると思われる。「叶愛ちゃんと一緒にいられる時間が癒やしだから頑張れる」これは良客から実際に言われた言葉なのだろう。「たまにしか会えないじゃん」、これは叶愛が言ったことでもあるし、言われたことでもあるのかもしれない。「欲しいものだって全部あげるよ」この辺も太客の言葉なのかホストなのか分からない。

ソープ客「田中」との対話

ここで上記の「不安感」から、ホスト本人には言えない本音が飛び出る。「幸せになりたい」、ではその幸せとは何かを問われ、「金を稼いでホストに貢ぐ」ことが幸せだと言う。しかし本当にそれが幸せなのかと問い詰められ、「金がなくても好かれるのが本当の幸せだよね」と悟る。「優しくされるとすぐ好きになるけど、その人に好きになってもらえない」という本音の悩みを吐露する。田中という客が看破する。「それは叶愛ちゃんも同じでしょ」。つまり「相手が自分のことを好きだと分かっても、金のために好きだと言わさせられている相手を好きになるはずがない」という真理。叶愛が田中のことを気持ち悪いなら、ホストも自分のことを気持ち悪いと思っている。はじめは「意味わかんない」と逃げては見たものの、ホストにこの真理「優しくしてくれたってどうせお金でしょ?」をぶつけると、「そんなことないって、ちゃんと叶愛のこと好きだよ」と返答される。叶愛は涙した。叶愛は気づいた。このホストの言葉は、私が田中に言った言葉そのものだと。場面が田中に戻る。「違う… っ」叶愛は否定する。「ソープで嫌な客相手に嘘ついて稼いだ金が無いとホストに振り向いてもらえない。そんなつまんねぇ人生もう無理」、無理だからこそ「クソ客ではなくホス
トにちゃんと愛されたい」
。これは嘘ではない。ちゃんと本当の気持ちを言えた。だが田中からの称賛も共感もない。「だから駄目なんだよ」。この否定には3つの意味がある。

  1. 人間にちゃんと愛されたいのなら、金の力を借りては駄目
  2. 金しか見ていないホストという相手に、金抜きで愛されたいと思ってしまうことが駄目
  3. 金を払って愛してくれている客を人間として見ていないお前が、ホストからは人間として愛してもらえると思っていることが駄目。

そしてこの駄目は、もちろん客自身にも刺さっている。ソープ客という養分が、叶愛という人間をホス狂いにしてしまっている。叶愛の真実の吐露が、悪い意味で田中の背中を押したのだろう。「今までありがとう」。時間切れ。ホス狂いのソープ嬢からの決別。

投身に至った考察

私はこの「田中」という客とのやり取りが、叶愛の飛び降りの直前に実際にあったやり取りだと考えている。ホストと上手くいかない、今の仕事も厳しい、この事を太客である、自分を愛してくれる田中に吐露した結果、上記の真理を見透かされた。それでも抗う叶愛を全否定し、田中自らも否定することで叶愛は太客を失うこととなった。もうホストに行く金つるが無い。屋上で独り安酒を飲み、田中の言う真理が理解できてきた。自分の愛したホストもまた、クソ客のことを金つるとしか見ていないのに、嘘の言葉を自分に囁くしかないのだ。ホストから見た自分が、自分から見た田中に重なった瞬間、絶望を理解した。ホストはアラームを持ち歩かないのかもしれないが、心の中のアラームはいつも鳴っていたのだ。ソープ部屋のアラームが鳴ったら苦行から開放される。ではホストのアラームが鳴ったら自分は何から開放される? 缶チューハイを飲み干す前に彼女は身を投げた。

本作を受け入れられない人へ

当ブログはエロ漫画を「評価」することはしないと決めている。紹介する作品は全ておすすめできる。しかし本作は万人に理解される作品ではないと付け加えることは許されるだろう。NTRやリョナで抜けないというのと同じ、個々人の嗜好の問題だ。上記の関係性を読み取った上で、ホストとヒロインのかりそめのまぐわいに欲情するも良し、ソープのクソ客としてホス狂いを分からせるのも良しだ。叶愛ちゃんは面倒臭いが可愛いエロい。ただ少なくとも考えなしに本作で抜くことは難しい。またこのような人間関係、特に金で愛を売り買いした経験がないと本当の味は分からないかもしれない。分かった上でもこのシチュが合わない人も多いだろう。それもエロではよくあることだ。本作で抜ける人は、ともすると並の作品では物足らないと常々感じているかもしれない。言うまでもないが、ニッチシチュで刺さった人はぜひその作品を大事にして欲しい。刺さらなかった人も、人生経験を経ていつかここに帰り着いた時に、また違う感情が生まれるかもしれない。それだけのポテンシャルのある作品だとは感じた。

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(FC2規制のため商品名を一部伏せています)

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