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上と下のハンカチのご用意を
本稿では前作「ポメラニアンとレモンサワー」を含めて、本作が大人気を博した理由について考察したい。
「犬と猫どちらが好き?」よくある質問である。ペットとしての飼育頭数は元来犬が多数派だったが、近年猫に追い抜かれている。人間の考えなど意に介さず自由に生きるミステリアスさが魅力のネコに対し、人間の忠実なる伴侶であり友であるイヌは「散歩など手間がかかって愛が重い」という認識なのだろう。エロ漫画的には動物系女子として「イヌ・ネコ・ウサギ」は定番と言える。本作は犬系と犬系のカップリングと明示されている。
本作の魅力は明らかに「ポメラニアン」こと下瀬茜と人懐っこい可愛さだろう。アオリに「全力少女!」と書いてある割には、ポンコツであることに凹み、好きな先輩に積極的に行けない根暗感が漂う。対する猪又先輩も人望もある有能なように見えるが、特にエピソードは無く、茜ちゃんの色眼鏡である可能性は高い。
「犬が尻尾振るように先輩ラブの茜ちゃん可愛い」は真実なのだが、ここは快楽天である。エロ漫画でアホみたいに男になびく女は決して珍しくない。茜ちゃんの魅力はむしろ生き辛さ、朴訥さにある。私も含めてエロ漫画の読者は有能無能に関わらず概して社交的という自己認識を持っていないと思う。なので、(恐らくAV比較でも)竿役は概ねコミュ障であるにも関わらず女性側が好意的にリードする展開が多い。つまり「女性の考えは理解不能だが可愛いし懐いてくれるから好き」という、ネコ好きの思考だ。対して、本作のヒロインは誰よりも読者に近い存在であり、男からしても「理解可能」だと思える人懐っこさを出している。本作を通して、茜ちゃんから先輩へのモーションは総じて気持ちが空回ってダダ滑っており、読者の大半はどちらかというとヒロインの方に自分を重ねているのではないかと思われる。そしてまた受ける側の猪又先輩も非常に朴訥としており、バイトの後輩を手籠にする罪悪感と性欲とで逡巡するところで読者の共感を集める。つまりエロシーンの手前は茜ちゃんのやるせなさ、始まってからは猪又先輩のダンディさに自然と感情移入できる、犬好きの親愛感と目線の近さが大ヒットの理由だと考えられる。蛇足だが、読者コメントで「デートしているだけで濡れてきて仕方ないのでパンティライナーを交換する」という描写が非常に好評だったのも、女性性欲の生々しい表現とともに、茜側への読者の親近感が現れていると感じている。
ネタバレというほどでもないが、本作は事後に2ページ半かけて、二人が付き合うどころか下瀬の両親に挨拶に行くという描写で締められている。最近はどちらかというとイチャラブでも「ヤった結果長続きはしなさそう」みたいなストーリーラインが多い中で、かなり踏み込んだオチである。これも偏に、ジャッカルとポメラニアン双方に感情移入させる物語なればこそのトゥルーエンドなのだろう。
<追記>
あらすじ(前作「ポメラニアンとレモンサワー」の続き)
憧れの猪又源先輩とセックスに持ち込みデートの約束まで漕ぎ着けた下瀬茜だが、酒の上での情事が本気だったのか真意を図りかねずデート中も落ち着かない様子。猪又先輩に夕食に誘われ喜んで着いて行くと、思いの外距離の近い個室に通されてしまう。舞い上がり放心する茜。猪又が茜の服を褒めたのをきっかけに、茜は猪又の真意を尋ねる。初Hの事に触れた猪又に、茜は「先輩が嫌じゃなければ 今日またしてもらっても いいですか?」と切り出す。
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