たとえ仏花だとしても [玉ぼん] 当て馬の恋 (快楽天 2023.12)

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copyright 2023 ワニマガジン 玉ぼん

タイトル 当て馬の恋
作者 玉ぼん
掲載誌 快楽天 2023.12
ページ数 28
ヒロイン 橘凛花
竿役 武藤先輩
発射数 4
公式タグ ムチムチ / おもらし / JD / 中出し / 巨乳 / 後輩・部下 / 恋愛 / 潮吹き
修正 白抜き修正
2023年下半期のランキングを制した玉ぼん先生の作品をレビューさせていただきたい。既にランキングトップを獲った作品について後追いでレビューするのはイナゴ呼ばわりされても仕方ないのだが、名作であることは間違いない。改めて向き合って想いを語らせていただきたい。

反省の弁

本作掲載は快楽天2023年12月号で、巻頭星井情先生「かつておねショタだった僕ら」の2番手での掲載だった。もちろん拝読させていただいたのだが、当ブログでの紹介は見送ってしまった。私の中での大きな理由は、本作が「エロ漫画らしくない」からだ。これは本作を否定したい意味では無論ないエロ漫画には冒頭からエロシーン、そして抜きの大ゴマに向けて、言うなれば男性生理の昂ぶりに呼応するように話を進める必要性がある。特にエロシーンに入ってからの肩透かしや「タマヒュン」するほどのホラー的なビックリ描写は厳禁といえる。かつてきぃ先生が「Hシーン中の回想コマを禁止されていた」と単行本で述懐されていたが、血液が海綿体に集まってから頭を使わせるような表現を入れるのは優しくない。ストーリーを重視する私は回想シーンに肯定的だが意図するところは分かる。そして男性には「賢者タイム」というものが存在し、エロシーンの後でピロートークのように後日談を挟みストーリーとしての読後感を整える、食後のデザートのような爽快感がエロ漫画には求められるといってよいと思う。これがある種のエロ漫画の「型」である。本作を読んでいただいた方なら分かる通り、本作はエロシーンとストーリーラインが3層に分かれている(内容は後程)。エロシーン1つめが8-11ページ、2つめが13-14ページ、そして19ページから始まる本ネタである。ストーリー的なクライマックスは18ページだ。非常に重厚なストーリーで、何なら冒頭笑わせに来ているのに後半泣かせに来ている。分かりにくいストーリーでは決してないのだが、初見時に勃てドコロが難しい作品ではある。ストーリーが重層的な作品は得てしてエロシーンもクセが強めだったりするのだが、本作のエロはイチャラブかつどノーマルであり、本当に心情描写に追いかけないとヌきづらい作品というのが私の評価だった。何ならそのような作品ばかりレビューしてきたハズなのに、本作から手を引いてしまったのは私の読みの浅さであるとともに、komiflo読者諸賢もボディラインよりハートで抜く本作のような作品を志向しているという事を改めて認識させていただいた。猛省するとともに、引き続き精進してゆきたい。

あてうま

「当て馬」というのは競馬由来の用語である。ウマ娘から競馬にハマった方は少なくないと思うのだが、この語は勝ち馬投票券的な「当たり」ではなく、ウマ娘であえて描かれない「繁殖」に関する用語だ。ウマを含む人間以外の動物は一般的にずっと生殖OKなわけではなく、仔の生育に適した期間から逆算したタイミングで「発情期」を迎える。発情は通常メス側がコントロールしており個体差がある。競走馬においては肌馬(メス)に対して種牡馬(オス)は厳選されているため稀少であり、発情を迎えていない肌馬のケツに種牡馬を近づけると最悪蹴られてケガを負ってしまう。そのため発情しているかどうかを試すためだけのオス馬が用意されており、これを試情馬ないし「当て馬」と呼ぶ。したがって馬産において必要不可欠な役割なのだが、これが転じに転じまくった結果、メインカップルにコナをかけにいって負ける男女のことも「当て馬」と呼ばれるようになった。もっと一般的に、ビジネスの現場でさえも挑戦の前の偵察的な役割の接触を当て馬と呼ぶことさえある。要するに当て馬の恋とは「負けること」が必要十分条件と言ってよい。

おコンバンハ

本作のヒロイン橘凛花はテニス部の部長が好きで、竿役の武藤先輩は同じくテニス部員の芽衣ちゃんに惚れている。しかし部長と芽衣ちゃんはどうも好き同士らしい。ということで橘と武藤は共同戦線を張って二人の恋路の邪魔をしていたというのが本作の前段である。結局、部長と芽衣ちゃんの人となりは描写がないのだが、1コマ目にして「ドラマのような大恋愛の末に結ばれた」らしい。それを見た橘と武藤がヤケ酒の挙句セックスに及んだところから本作は始まっている。酒が抜けた二人は当然後悔し、己の失恋を愚痴る。しかしいわゆるBSS的な展開と違い、おそらく八方手を尽くした結果の敗北なので大きな悔いはないらしい。引き続きテニス部員として活動する二人。吹っ切れたように見える武藤にモヤモヤする橘凛花の目線で物語は進む。目的は失っても腐れ縁のように思い出語りをする二人。そ
んな二人が部室を開けたとき目に入ったのが、部長と芽衣ちゃんのセックスシーンだった。そらこんな顔になるやつである。

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再び酒におぼれる当て馬ども。想い人との回想を挟みつつも、既に身体の関係を結んだ二人は止まれなかった。先述の通り本作はヒロイン視点で進んでいるのだが、橘さんの中では未だ割り切れていないながらも武藤先輩との温かい現状を受け入れようとしていた。前回は「芽衣」と他人の名前を叫んで腰を振っていた武藤も今回はちゃんと自分を個体認識した上で気遣いをしている。事後、ふと武藤先輩は橘のことを「凛花」と名前呼びする。ヒロインが新しい恋を受け入れるのはまだ先なのだが、武藤先輩はこの時点で既に芽衣ちゃんのことは忘れ、言葉は悪いが「乗り換えて」いたのだろう。なお凛花ちゃんは武藤先輩を最後まで名前呼びしなかったので竿役の下の名前は不明のままである。

うつろうひととき

13ページから14ページにかけて、「武藤は割り切ったが凛花が割り切れない」期間が続く。身体の関係はずっと続いているのだが、夜以外の二人の距離感が徐々に詰まっていくのには相応の時間があった、という描写だ。男はしょせん「勃った」時点で負けであり、身体を許してくれた女性にすぐ惚れる生き物である。浮気性な男性もベッドの上では都度都度しっかり惚れている(そしてすぐ忘れる)ものだ。だからこその凛花呼びである。対して女の生殖行為は命がけであり、一度コレと見定めた相手を変えるには相当なきっかけが要る。純生物学的に考えて、女がイチコロで惚れる男は遺伝的に優秀(=イケメン)か、生活力(=ステータス)が高いのどちらかであり、そんな優秀オスがハーレムを形成する。そんな一握りの男以外が女を満足させられる唯一のファクターが「安定感」すなわち変わらず愛し続けることだ。武藤先輩は冒頭からこれといったアピールポイントがなく、「他の女から認められなかった」というのもマイナスポイントが大きい。しかし長く、変わらず、凛花を愛し続けた。酒に飲まれてのセックスという形だったが、徐々に酒量が減っていった。そして恋に破れた凛花の心は癒され、傷は埋められていったのだ。

供えられた花束

そして転機となる夜、またぞろ身体を重ねるという瞬間で、武藤先輩に芽衣からの電話が入った。くどいようだが本作はヒロイン視点なので、この電話の真相は分からない。しかし芽衣は泣いており、武藤に会いたいという内容だった。察した凛花は、行ってあげてくださいと背中越しに伝えた。芽衣と武藤先輩が一発逆転すれば凛花も部長とワンチャンあるそんな考えは微塵もなかった。武藤先輩の部屋で穏やかに楽しく過ごした日々、それを喪うことは未だ何もなかった部長との恋より辛かった。急ぎ部屋を出る武藤。しかし当て馬から始まった二人には、凛花には武藤を止める言葉が見当たらなかった。先輩の迷惑にならないよう、私物をまとめる凛花。しかし武藤はすぐに帰ってきた。外へ出たのは部長に芽衣の始末をつけさせるべく電話したから、そして手には花束。武藤もまたこの関係を何より大事にしたかった。ありったけの言葉で凛花に告白する。凛花はそのコンビニで買ってきた仏花を受け取って大切に胸に抱いた。当て馬から正カップルへの昇華のときだ。

エロ漫画界に花束を

エロ漫画に限らずエロコンテンツの本質は「他人のセックスの覗き見」と言える。我々は6ページのような顔で部室を覗いている武藤先輩に他ならない。物語のヒロインの恋路を邪魔することもできない大勢の当て馬の一人なのだ。本作はそこにスポットを当てたうえで、想い人のセックスを覗き見するように人間でも幸せになれるレシピを魅せてくれた。さらに特筆すべきは、二人の馴れ初めから本気Hまでの道程をエロシーンと重層的に描いて見せたところだ。よく言われるように、3次AVを最初から最後まで早送りせずに鑑賞する紳士は極めて少数派である。どれだけ女優が演技しようが、感動的なストーリーが練られていようが、結局思い思いのエロシーンまで飛ばされて、用が済めばそこで視聴終了だ。2次エロでも単発絵がいくらでも、何ならAIで生成できるご時世である。以前も書いたが、タイパ重視の世の中でわざわざエロ漫画を志向する人間は、セックスに至る理由、バックストーリーに重きを置いている。その中でも本作は群を抜いてストーリーに重厚感がある。エロ漫画として規格外と思えるその重厚さに惚れこみ、いいねを投じた読者が5千超もいた。エロ漫画界?にとって大変喜ばしいことであり、これこそ生成AIには出せない深味なのだろう。後進の執筆陣に対しての大きな道標となる、我々当て馬の読者にとっては大いに慰めとなる花束のような作品だ。たとえ仏花だとしても。

あらすじ

テニス部の橘凛花は部長のことが好きだった。同じく武藤先輩は芽衣ちゃんに惚れていた。しかし
部長と芽衣ちゃんは良い仲になりそうだった。この四角関係を打開すべく橘と武藤は人の恋路を邪魔しようとしたが、部長と芽衣は無事ゴールインしてしまう。失恋のヤケ酒に溺れた当て馬の二人は勢いでHしてしまった。

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