
当ブログでは過去に成人指定されていない位置原光Z先生「青春リビドー山」をご紹介させて頂いた。こちらは紆余曲折あったものの初出自体は他ならぬエロ漫画雑誌、快楽天だ。本日何としてもご紹介したい本作は、ゲッサン連載の間違いない一般作品である。正直ご迷惑の誹りは免れないであろう。しかしそれでも本作の良さを語りたい、語らなければならないと思わせてくれたのも他ならぬ本作だった。長くなり申し訳ないがお読み頂ければ幸いだ。
以下、藤丸先生の成人作品に言及します。18歳未満の方および性的表現がお好きでない方はブラウザバックをお願いいたします。申し訳ありません。
Love me tender
エロ作品というものは総じて記憶には残らないものだと思う。いわゆる「下半身が覚えている」作品はあっても、失くしてしまうと名前一つ思い出せない事が多々ある。5chでたまに捜索依頼が出され、たまに有識者により再開が叶ったりする世界である。私がしつこい程に紹介作品の背景や固有名詞、フックになりそうなワードについて書き遺している理由の一つとして、そういった迷える人の検索ワードから作品に繋げたいという思いがある。私にもそのような作品は山ほどある。往時の紙の本はほぼ残っていない。
そのようなメモリーロストを経験して、意識的に「遺そう」と強く思ったきっかけとなる作品がいくつかある。その中でも、エロとか抜きとか関係なく作品そのものに惚れ込んだのが藤丸先生「Life is a battlefield」3部作だ。トップアーティストかつ生粋の童貞だったタクミくんと、そのマネージャーかつナイスバディのすみれさんの立身出世物語である。タクミくんに良い仕事をしてもらいたい一心で自分を抱かせたすみれさん。それまで女性との距離感がバグっていたタクミくんは押し切られる形でセックスを経験する。以降も裸の距離感で甲斐甲斐しく世話をしてくれるすみれさんとメキメキ売れるタクミ。「これで共演の娘とヤレるといいね」というすみれの屈託ない笑顔と裏腹にタクミはすみれに惚れてしまう。タクミが用意した指輪を「私なんかに躓いてはいけない」とすみれは丁重に突き返した。ここまでが前段だ。この後いろいろ試練があるのだが、抱き合いながら
すみれ「一時の気の迷いかも、もっといい人に出会えるかも」
タクミ「うんでも、そしたらすみれさんは仕方ないって笑って済ますだろ」「そんなんだから好きなんだろ」「分かれよ!!」
このタクミのセリフが私は忘れられない。大岡裁きのような、本当に自分を大事にしてくれる人だから愛おしいという誠実な恋心に私もまた心打たれた。すみれさんはエロいだけでなく、しごできでありコミカルでもある。長らく藤丸先生のアイコンはタクミを送り出すすみれさんだったと記憶している。本シリーズ掲載の2017年から藤丸先生は快楽天の看板作家として「八月の灯」から始まる「ユアソング」シリーズを2020年1月号まで描き上げる。その後コロナ禍の中で3rd単行本「花」をリリースし、その宣伝漫画「お鍋の花(快楽天2023.01)」を最後にkomifloでは新作をお見かけしなくなった。
スーパーLADiSIA
私は連載作品は続きが気になって仕方ないので、基本的には単行本単位で追いかける派である。特に最初の数話はまとめて読みたい。藤丸先生が一般で描かれるという情報を聞いて、単行本の発売まで私はその作品には触れなかった。今後は間違いなく追いたい。一方で魂を奪われ発売日買いしている作品の一つに、地主先生「スーパーの裏でヤニ吸うふたり(ビッグガンガン連載)」がある。こちらもスーパーのレジ打ち山田と、枯れた独身中年サラリーマン佐々木が織りなす年の差ロマンスで、ぶっちゃけ本作と丸被っているという思いしか無かった。
本作の概略を説明しておきたい。1話は無料公開され続けていると思うので実際に読んで頂ければ幸いだ。主人公である花田和巳(36)はフリーの作詞家としてやっていくために勤め先を辞め引っ越してきた。そこで見つけたLADiSIAという食品スーパーに買い物に出かけ、ヒロインであるレジ打ちバイトの志乃崎純に一目惚れするという導入だ。和己は8年前に婚約者を寝取られる現場を目撃したというトラウマがあり、恋愛はおろかラブソングも書けないという有様だった。「俺は独りで生きる」と公言する彼を周囲は「恋愛レジスタンス」と揶揄する。一方で「チョコちゃん」という顔出しNGの歌い手のための仕事を請け負った和己は、会話を交わしたことも無い純への想いと向き合おうとしていた。
このスーパー、3話「恋に堕ちてもいいですか?」で純が風船配りに駆り出されたイベント「かつしか桜まつり」から東京都葛飾区で間違いないだろう。そしてスーパーの外観やロゴから当家が長らく愛顧しているスーパーマーケットチェーン「ライフ」の店舗がモチーフであることもおそらく間違いない。葛飾区内にライフは5店舗ある。この中でも本作読者にオススメしたいのがライフ奥戸街道店だ。Googleストリートビューでの外観は下の通りである。本作ではさかんにトラス構造の橋を渡る光景が描写される。この店は中川沿いに建っており、京成立石駅側に本奥戸橋が架かっている。なお執筆時点でライフ奥戸街道店ではレジアルバイトの募集は行われていないが、時給は1,175円からのようだ。

45cmの向こう側
高校生バイトの志乃崎純は、レジ打ちという仕事にやり甲斐を感じていながらも、将来の進路という決断に悩む恋知らぬ女子だ。彼女はモテキャラであり、レジでナンパしてくるクソ客を和己に追い払ってもらったことにお礼を言いあぐねていた。店を良くしたいという想いと自己犠牲心が時に空回りする。その姿を見ていた和己は、「ジャンヌ・ダルクの初恋」という着想を得て歌詞を書き上げる。ジャンヌが見上げる夜空。「向こう岸に簡単に手が届きそうなのに、いくらやっても届かない」空に浮かぶ45cmの」天の川に、近そうで遠い身近な相手への恋心を乗せた。この歌詞を見たチョコちゃんは「作詞者に逢いたい」と逆に願い出た。チョコちゃんこと奥野千代子は実は純の同級生で、一本気な純を慕っていた。そんなことを知る由もない和己と千代子は対面し、和己の歌詞を歌うないと突き返すものの称賛する。レジという仕事に打ち込む純の姿を見守る二人が知り合ったところが1巻収録全7話の道程だ。千代子は和己に「45cmという具体的な数値」の意味を問う。和己ははぐらかしたが、これは一般的なレジのチェッカー台の幅を指している。和己だけでなく、千代子もまた45cmの向こう側にいる志乃崎純に思いを馳せていたのだが、この時点では同じ人を見ていることに気付くはずも無かった。

This is Love
大変申し訳ないが、ここでもう1本エロ漫画をご紹介したい。「This is Love(快楽天2016.10、ラブミーテンダー収録)」という作品だ(ツイコミに冒頭シーンがある)。濃いネタが続く単行本内では印象が薄めの話で私も詳細が薄れていた。一読して頂ければ間違いなくこれが「レジスタ」のプロトタイプであるとわかる。竿役の阿達がレジ打ちの「おざき」さんに惚れる話である。こちらはエロ漫画なのでレジ打ち後におざきさんが阿達をバックヤードに連れ出してパンツ丸出しでおねだりを始める。いよいよ始まるかというところで掟破りの「阿達の夢オチ」となってしまう。ギンギンの朝立ちとともに二度寝すると今度は裸エプロンでお料理してるシーンに話が展開しており、夢オチと分かっていながら、いるからこそ目一杯まぐわいを愉しむ。要するにオッサンが夢に見るほど惚れ込んだというオチである。阿達が周囲に独身であることをからかわれるシーンもあり、阿達に言い寄ってセックスにこぎつける女は奇しくも和己が寝取られた女に似ている。極めつけは、おざきさんも志乃崎純も竿役のタバコ銘柄を覚えていてくれていたというオチが共通している(レジスタは3話「恋に堕ちてもいいですか?」)。ちなみに阿達は23番、和己は20番である。覚えておきたい。「This is Love」の舞台のスーパーの外観が最後にちらっと出てくるのだが、本作の舞台LADiSIA某店とよく似ている。
ももち
あともう一つ。本作でどうしても紹介したい人物がいる。本作冒頭で和己の楽曲提供先として登場する桃稚るなちゃんである。旅行会社のタイアップを射止めたメジャーな彼女の所属は本作では書かれていないが、みなさんご存じWANIプロである。上でご紹介したタクミくんシリーズ2作目「Live is battlefield」で登場し、最後のほうにもチラっと存在が示唆される。ネタバレになるが、彼女は左下で名刺交換しているマネージャーとディープな肉体関係にあり、ヒロインすみれさんがタクミくんのために騒動を起こしたことで醜聞が明るみになり干された。エロ漫画上ではこれだけなのだが、本作において「不倫」と報道されている。桃稚るなは独身なはずなので、このマネージャーが妻帯者らしいことが10年越しで明らかになった(こいつ以外ともヤっていた可能性は否定できないが)。そして当然その裏で作詞家が一人割を食っていた事実も10年間知る由も無かった。とんでもない伏線回収で驚きを隠せない。ちなみにタクミくんは自力で作詞作曲が出来る有能である。当ブログは扉絵以外エロ漫画を引用しない自主規制を敷いているが、今回だけは何卒許してほしい。

つながる、快感。
本作タイトル「レジスタ」は一見するとスーパーの精算で見かけるレジスター(register)を指しているように思える。レジスターは登録するという意味で、売り上げの記録が主目的の機械だ。しかし上記の通り作中では「レジスタンス」(resistance、元は仏語)という単語がたびたび出てくる。ままならない世界という理不尽に対して、和己が、純が、千代子が、そしてジャンヌダルクが「抵抗」するという様を表している。そして5話「理想を掲げちゃダメですか?」で、ベテランパートの佐伯さんがアツくなる純の事を「うちのレジのスターです」つまりregi-starと茶化すシーンがある。本作ロゴに星が描かれているのもここで回収されている。
エロ漫画では男女は僅か20ページそこらで45cmどころかゼロ距離(ないし0.01mm)に詰めてしまうので、本来の色恋で味わえる「レジスタンス」が存在しえない。そして大半が読み捨てられる全てがインスタントな関係性だ。それでも当ブログで多数紹介してきた才能と鍛錬が磨き上げた珠玉の名作が日々生み出されており、引き抜くというより押し出されるように一般作品の舞台へ上がる作家様は後を絶たない。一方でweb掲載を含めて一般漫画もまた過当競争に晒されており、日の当たらないまま消えてゆく作品が少なくない。一般漫画もまたバズらなければ日の当たらないインスタントな存在が増えている。表紙に書かれている説明書きによると本作はインスタントでもなければレジスタンスでもない。「リターナブル・ストーリー」、再生可能な物語だそうだ。その真意は今後作中で明らかにされるのだろう。しかし少なくとも現時点で私は具体的に過去作からリサイクルされた箇所、それだけでなく「ワンナイトで終わらない」藤丸先生らしい男女の堂々巡りの機微を感じられる。2nd単行本「ユアソング」の帯に書かれていた「つながる、快感。」だ。エロ漫画と本作を絡めることを邪道と思う方もいらっしゃると思うが、それでもなお私は本作がエロであれ何であれ、未来の何かに再生可能であることを期待せずにはいられない。
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