copyright 2025 ワニマガジン MURO
タイトル | pre-prima donna |
作者 | MURO |
掲載誌 | 快楽天 2025.09 |
ページ数 | 28 |
ヒロイン | 三ツ木有史 |
竿役 | 七々華 |
発射数 | 2 |
公式タグ | フェラ / オナニー / 中出し / 手コキ / 淫乱 / 逆転 / 陰毛 |
修正 | 白抜き修正 |
引き続き快楽天から、MURO先生の作品をご紹介したい。決して怖い話ではないので軽い気持ちでついてきてほしい。
神様のパズル
本作竿役は三ツ木有史先輩、のち映画監督である。私はこのへんに本当に疎いので、大人気監督「三池崇史」というお名前とご尊顔だけ出しておきたい。本作は基本的に映研の後輩であるヒロイン七々華さんしか登場しないため竿役は常に先輩呼びである。読みは「ななか」とすんなり読めるのだが漢字変換が通らない。単漢字の読み的に七々華さんの「々」は無くても良いような気もする。彼らの所属は荏大映研とある。この字は地名としては「荏原」くらいしか使われない気がするが大学名は出てこない。なお荏は訓読みで「荏らか」と読み、精神的に軟弱なことを指すとされる。

ハッピー別荘
三ツ木は映像制作に窮まっていた。彼は自分の担当した作品が「色恋沙汰」によって突如制作中止になった過去がある。ここから彼は映画監督たるものストイックに作品と向き合わねばならないという信念と、仲間を信用できない人間不信に陥っていた。その孤高ぶりにかつての仲間とは距離ができていた。行き詰まる三ツ木。そこに手を差し伸べたのが七々華だった。彼女は大学内で募集をかけた演者の一人だったが、三ツ木の映像に対する真剣な眼差しに惚れ込み、正式に部員となった。三ツ木が周囲から孤立しても彼女だけは三ツ木を慕い、夏休みに気分転換も兼ねて親の別荘へと誘った。ウォーターフロントのお高そうな別荘だ。
三ツ木くんの禁忌
端的に言えばハリネズミのジレンマである。被写体としての七々華は素晴らしい。彼女を最大限使わない手はない。しかし一方で、撮り手が演者に個人的好意を抱くことを彼は禁忌としていた。「現場を作紺を壊されるのはうんざりだ」「俺だけは違う」。ここで彼の思考は堂々巡りを繰り返し制作も頓挫していたのだ。七々華さんにとってはそれを察した上での旅行だった。サマードレスのまま岸辺で仰向けに浮かぶ七々華、6ページ、その姿を見た三ツ木は突然水に飛び込む。純粋無垢に見えた七々華を見て彼は悟りを得た。「誰でも好きになる 可憐で清楚で– 純粋な女の子と恋する話!」を撮りたくて、三ツ木はそういう映画で世に出たいと叫ぶ。そして七々華の手を握り、「七々華ちゃんのありのままを撮りたいな」と告げた。突然の告白に困惑する七々華、三ツ木もあわてて手を放し一旦水入りとなった。
三ツ木くんの原罪
8ページ、別荘のベッドで二人は手を握っていた。カメラは回っていなさそうに見える。顔を赤らめる二人。七々華のほうから唇を寄せてゆく。「ちょっと待ってッ」慌ててカットする三ツ木。ここで最初の掛け違えが起きる。プロポーズか何かだとざっくり理解した七々華さんに対して、三ツ木はあくまで映画の話だと一線を引きにかかる。しかしここで明確に、三ツ木の側にとっても七々華に対する女優として以上の「期待」があったことが分かる。彼女の求愛を拒絶したかったのでは無い。のだが、映像作品制作者として自分に課した禁忌は絶対だ。この「禁忌」について三ツ木が七々華へ早々と伝えていればこの話はこじれなかったのだ。自分ルールのために七々華を巻き添えにしてしまった。これが本作における三ツ木の原罪である。
「そうだこの間取り!このベッド!熱心なファンが俳優を監禁するあの映画ッ 中盤の縛られて殴られるシーン… こんな感じじゃなかった!?」三ツ木は自分が映画制作者として一線を引こうとしていた。そのためにこの逢瀬は映画の打ち合わせであることを強調するためにデタラメを口にした。七々華もそれに合わせる。「そうだっ再現しよう!なんか閃くかも」これも三ツ木の弱さと見当違いの表れである。「禁忌」に触れそうになる自分を物理的に縛ってしまえば間違いは起きないはずだ、という自己責任からの逃避。そして七々華という人物、ひいては彼が立ち向かおうとしている「恋愛映画」に対する解像度の甘さである。
三ツ木くんの救済
10ページ、両手、胴、腰と全身を仰向けにベッドに縛り付けられた三ツ木は絶叫していた。目の前には七々華の尻、そして自分のチンコは七々華の顔の前で露出していた。三ツ木が例に出した映画のシーンがどうなっていたかは不明だが、七々華はこういうことがしたい照れ隠しとして映画を持ち出したと判断していた。11ページ、ここで彼は禁忌を共有する。「えと か 監督としてッ 大切な女優に手を出したくないんだ…」。七々華は一瞬驚いた表情をしたあと、「わかりました…」と三ツ木をそのままにして部屋を出た。
考察は後にして、先に事実を伝えよう。帰ってきた七々華さんはアロマオイルウォーマーを灯した。下のモノでお値段5,500円である。それが何かの質問には答えず彼女は笑顔で「部長がそう言うなら セックスじゃないのにしましょうね」「余計なものを捨ててほしいだけなんです 映画に没頭できるように」。そう言って彼女は手袋にオイルをつけ前立腺マッサージを始めた。つまり三ツ木のアナルに指を突っ込んでチンコ側をクリクリされている。14ページ、射精シーンもないまま彼女はマッサージを続け、潮吹き、いわゆるドライオーガズムに漕ぎ着けた。

涙でグズグズになっている三ツ木は「何でっ…」とだけ口にする。あわててご不浄を触った手袋を脱ぎ顔を拭き取る。なお仰向けで起立を続けるチンコを再びシックスナインの体勢で舐め始める。ここでさらに1発。七々華は「もう一回お風呂入ったら脚本やりましょ…」「また息抜きが必要になったらいつでも言って下さいね」と告げた。三ツ木の返事はなかった。
七々華さんの原罪
6ページに戻ろう。「誰でも好きになる 可憐で清楚で– 純粋な女の子と恋する話!」「七々華ちゃんのありのままを撮りたいな」と三ツ木は言った。しかし上記のエロシーンから「ありのままの」七々華の一面が垣間見えた。アロマオイルからの前立腺マッサージ、ドライオーガズムからのフェラ抜き。どう見ても素人では無い。これはかなり高級な方の出張エステ嬢の仕草だ。さらに踏み込もう。親がこんな立派な別荘を持つところのお嬢様が出張エステ嬢になる必要が無い。おそらく彼女は「女優」として、太客の愛人となり、何らかのスペシャルなご奉仕の見返りとしてこの別荘を借りているのだ。それ以上の経緯は分からないが、それが七々華にとっての「誰とでも好きになる 可憐で清楚で– 純粋な女の子とヌキヌキする話!」であり、「七々華ちゃんのありのまま」なのだ。もちろん七々華にとってこれは「禁忌」である。8ページ、だからこそ彼女は目一杯恋愛映画のことを考えキスから入ろうとした。しかし三ツ木はこれに乗ってこず、自分からベッドに縛られる話を始めだした。これを七々華は「セックスしたい」と受け取り、恥を忍んでプレイを前に進めようとした。11ページ、七々華は三ツ木の禁忌に触れる。「大切な女優に手を出したくない」、この発言に対し七々華は二つの可能性を考える。
- 三ツ木は自分のことを女優という商品か何かとしか考えていない。
- 三ツ木は「監督と女優は交際してはいけない」という認知の歪みを抱えている。
正解は2だ。理由は七々華に知るよしも無い。1はつまるところ愛人と同じ発想である。そこで七々華は自らの禁忌をさらけ出した。七々華にとっては三ツ木が「映画制作に熱い眼差しを向ける」ところが見たい。もし三ツ木も1を求めており、それで映画制作に身が入るのであればそれはそれで良しだ。ということで、七々華はセックス抜きのスペシャルマッサージを続けた。
七々華さんの救済
見開き18ページ、三ツ木は奇しくも1の思考に流れていた。セックスはしていないのだから、これは自らの禁忌を犯してはいない。しかし当然ながら、三ツ木のゴールであったはずの恋愛映画には到底たどり着けそうも無かった。三ツ木はさらに進退窮まっていた。ご満悦でおしりプレイを進める七々華さんを前に三ツ木は目頭を押さえて自問する。「映画だったら… こ…ここで打開策を思いつくはず…」「全部を失った主人公が 現状を壊す何かを閃くはずなんだ…」。七々華は即答した。答えが1ではなく2なのであれば、問題は三ツ木の中にしか無い。そして打開策は目の前に居る七々華が提供できる。「いらないものは」つまり三ツ木の抱える禁忌という認知の歪みは「捨てて…壊して」、21ページ、「いい映画作りましょ…」。七々華はマングリ返しで「打開策」を三ツ木の喉元に突きつけた。ここから三ツ木は一言も発さず七々華を犯す。嬌声を上げて三ツ木を受け入れる七々華。23ページから24ページ、「これが見たいからっ 私は何でもしたいんですっ」「部長が 部長のっ 目の前のことに夢中になってる顔が……….♡」
10年後のきみたちへ
もう一度6ページ。「誰でも好きになる 可憐で清楚で– 純粋な女の子と恋する話!」「七々華ちゃんのありのままを撮りたいな」。何も知らなかった三ツ木はこの2つが当然同じ物だと認識していた。そこがそもそもの間違いだった。現状を壊して何かを閃いた三ツ木は、あの時感じた自分の決意を改めて思い返し、後者つまり「七々華ちゃんのありのままを撮りたい」という思いこそが本物だと理解した。そしてそれは同時に目の前の女優に対するある種の「幻滅」でもあった。この「幻滅」という感情こそ、七々華が「捨てて…壊して」と言った「ありもしない勝手な偶像」の裏返しだ。そしてこの幻滅という通過儀礼を経て、三ツ木は無言で被写体としての七々華の魅力を分析を始めていた。七々華が見たかった「目の前のことに夢中になってる顔」をしていた。そして三ツ木は正しく、監督として、監督の顔を見たがり手を伸ばそうとする七々華の要求を拒絶した。幸せそうに精子を受ける七々華、抜かず後ろから乱暴に貫かれる七々華の女優としての魅力が見つかった。
時は過ぎ、「大ヒットか上映禁止のピーキー監督」としての地位を得た三ツ木有史監督の出世作「七々華」の公開10年目の復刻公演が行われていた。「全員バラッバラにされる」「アマチュア時代の恋愛作品」「世界を震撼させたサイコ」まで読める。そのポスターには、ありし日の七々華の物憂げな顔が大写しになっていたというオチである。本作タイトル「pre-prima donna」のプリマドンナは「一番の娘」つまり主演女優を指す。そこにpreとついているので「主演女優になる前の雛」とでも訳したい。そして扉絵の「揺蕩うは名女優」のフリガナに「ファム・ファタル」とある。フランス語「femme fatale」は直訳すると「致命的な女」となる。直接攻撃してくるような女では決して無い。しかし自分の秘めたる目的のため、男を魅了し籠絡し動かそうとする「魔性の女」のことを指す。私の好きな言葉である。本作は素読みしても深読みしてもヒロインが美しくエロい。そしてラスページで提示された情報でとたんに背中に寒気が走るような怖さがある。私の解釈をご紹介したが、さまざまな解釈が取れる深みと余白のあるストーリーである。MURO先生のストーリーテラーぶり、それでいてエロ漫画としての芯を外していないところは流石である。本作は巻頭から雲呑めお先生、どじろー先生、玉ぼん先生と大看板がズラリ並んでいるが、七々華さん、そして未来のMURO先生ガールズは近い将来必ずや快楽天のプリマドンナと称されるに違いない。
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330円
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