copyright 2025 ワニマガジン punk
タイトル | 他に好きなやつもおらんし消去法であんたにしとくわ。 |
作者 | punk |
掲載誌 | WEEKLY快楽天 2025 No.01 |
ページ数 | 32 |
ヒロイン | 柚葉 |
竿役 | 蓮太郎 |
発射数 | 1 |
公式タグ | ツンデレ / ショートカット / 処女 / 幼なじみ / 恋愛 / 潮吹き / 童貞 / 貧乳・微乳 / 陰毛 |
修正 | 白抜き修正 |
年明け。前稿は2024年末に書き始めたものが越年したため、今年の初投稿はweekly快楽天のpunk先生の作品とさせていただきたい。新春にふさわしいインピオ風味かつノスタルジックな逸品である。
恋愛シュミレーション
本作のあらすじとしては、「昔好きだった子と、今好きな子が同一人物だった」という少女漫画でよくあるプロットである。一般に男性は女性ほど「運命の出会い」に賭けていないと思われるので、本作の竿役である蓮太郎くんもそこにキュンとはしていない。単純にこっばずかしい出来事として捉えている。上記を前提として、本作の視点はあくまでヒロインである柚葉であり、柚葉側の心の揺れ動きを愉しむ作品となっている。物語時間軸では二人は第二カイマンズマンションの上階と下階に住んでいる幼馴染という間柄だ。どちらが上の階かは不明だが、立場的には柚葉が上と本人は認識している。柚葉はずっと黒のトレーナーを着ているのだが、胸に「Don’t be honest」と書いてあるのが沁みる。両親が出かけて行った後、蓮太郎が「付き合ってない女子にプレゼントあげるのはどうだろうか?」というブッこんだ質問を投げかける。内心の動揺を隠して柚葉は詳細を聞き出しにかかる。蓮太郎は「シュミレーション」(原文ママ、柚葉にツッコまれる)とはぐらかすのだが、記憶がはっきりしないが「俺昔、好きな子がおってたしか告白してん」と再度ブッ込む。繰り返すが本作は柚葉視点なので、蓮太郎とののらくらした30分の尋問を柚葉がパペットで5コマにまとめてくれた。時期は小3、近所のスーパー「ミカワヤ」のゲームコーナーで「ノケモンのキラカード」をプレゼントし遊びに誘ったところを、その女の子にアホほど罵倒されてこっぴどくフラれたとの事だった。このパペットは文楽人形ばりに表情変化のギミックまでついている。蓮太郎の悲劇の告白に大笑いする柚葉は、それが他ならぬ自分であることを明かした。蓮太郎はよもやよもやフラれた相手にそのことを30分もかけて説明したうえで「再度会いたい」とまで言わされたことに枕を抱えて奇声を上げる。ここまでが前段だ。
涙出るほどつまらん話でしたわ
後段、ここまでのエピソードに対する柚葉の視点が明かされる。柚葉はこの顛末を全て覚えていた。元はとい言えば、そのノケモンのキラカードをねだったのは柚葉だった。やっとこさ手に入れたそのカードをクリスマスプレゼントと称して柚葉にプレゼントした上で、幼少期に二人でよく遊んだミカワヤのゲームコーナーに誘った。小3だとしても勇気の要る求愛だった。そして小3メスガキど真ん中だった柚葉さんはこれを正面から受け止められず盛大にチャカした。ここで自らを指して「いけず」という言葉が出る。語義的には「意地悪」などと訳されるが、「面従腹背」心にもないことを言う、という意味合いがある。TPOに合わない服装の人間に「ええ服きてはりますなあ」と言うことで暗に注意を向ける、というやつだ。自分の手土産に対して「つまらないもんですけど」という謙譲表現は全国的に使われると思うが、これも「いけず」の範疇なのだ。柚葉は蓮太郎の心尽くしに喜び、ときめいた。しかしそれを表現することが出来ずに罵倒するという「いけず」をしてしまったのだ。柚葉はその事を悔いていた。しかし蓮太郎はその後ショックのためか高熱を出して寝込んでしまう。高熱によって記憶障害が起こることはままある。蓮太郎はショックだったこの出来事を記憶から遠ざけてしまった。そして不幸にも柚葉はこのために謝罪の機会を逸してしまい、「なかったこと」として今日まで心の中に留めていたのだった。蓮太郎の真意を聞き、彼の中でまだ自分が良い思い出として残されていることを知ってしまった柚葉は、贖罪と愛おしさがないまぜになったまま蓮太郎に身体を差し出した。最後まで好きと言わない「いけず」なまま、涙でぐずぐずな顔のまま、二人は身体を重ねあった。方言女子の中でもかなり純度の高い本作は、朝ドラを超えて読者諸氏の心を揺るがせたのではないだろうか。ぜひ一度は手に取ってみてほしい作品だ。あと普通にMの気がある関西在住の読者にとっても必読と言いたい。
やっぱ大好きしか出てこない
タイトルで消去法と書いて「しゃあなし」と読ませる、そしてこれが全て「好き」の裏返し。これが「いけず」の真意である。諸説あるが、これは朝廷や武家の権力が入り乱れた京都の中で必要とされた本音を言わない「処世術」であり、人の出入りの多い京都で価値観の衝突を防ぐための「合言葉」だったという。日本人が本音を言うようになってからまだ日が浅く、それでもなお海外からは「YesなのかNoなのか分からない」と日本全体が「いけず」文化の中にあると言われている。セックスとは本音のコミュニケーションであり、恋愛は本音と建前の中に生きる二人の意識調整の場なのだろう。海外には「告白」という文化がないと言われるが、「いけず」文化の中で傷つくことを覚悟で伝える偽りない最初の本音のことを「告白」と呼び、日本人にしか分からない価値として共有されているに違いない。知らんけど。
必修用語集
本作は全体を通して遠慮のない関西弁で通されている。関西弁にも様々あるのだが、神戸や河内ではなく大阪から京都寄りと感じている。私はネイティブなので必要以上に汲み取れたが、そうでない方のために用語集をご用意した。太字にしているところがアクセントだと思っていただきたい。
元言語 | 標準語 | 補足 |
---|---|---|
しゃあなし | 仕方なく | 「消去法」という訳は秀逸 |
たいがい | だいたい | 大概 |
えぐい | ヤバい | 軽い意味で使う |
ほんまに | ほんとに | |
うちら | 私達 | 家族じゃなくても使う一人称 |
はいは一回 | はいは一回 | 吉本新喜劇の辻本茂雄のネタ |
区別できひん | 区別できない | 「でけへん」「できへん」などバリエーションあり |
きしょい | キモい | 「気色悪い」か「気持ち悪い」かの違い |
ええんちゃう?しらんけど | いいんじゃないの? | 「無責任なことを適当に言った」という付加句 |
えらい具体的 | ずいぶん具体的 | 特に偉くはない |
その話長ごなる? | その話長くなる? | シリアスな空気を感じたとき差し挟むと良い |
あんな… | あのね… | 「こんな」とかの指示語ではない |
もうええわ | もういいよ | 漫才の締めの常套句 |
フラれはりますわ | フラれられますよ | 「はる」は敬意やら何やらを表す助動詞 |
告白してもうて | 告白してしまって | 「もろて」と同じ意味 |
あごめん屁ーでた | (言わない) | 親愛表現 知らんけど |
いけずしてばっかやった | 意地悪してばかりだった | 本文参照 |
は?しばくぞ | は? | 口をついて出る付加的暴言 |
ほんまにはよせえ | 本当に早くしろ | 「いらち」を参照 |
うちのことねぶりすぎ | 私のこと舐め過ぎ | 「ねぶる」には「下に見る」という意味はなく舌で舐める事を指す |
どんくさい | 器用じゃない、機転が利かない | 「鈍臭い」 |
いいひんし | 居ないし | 2つめの「い」は長音 着ない -> 着いひん |
せいぜいきばれよあほ | 精々頑張れよ | 「気張る」 |