copyright 2023 ワニマガジン 木瀬樹
タイトル | melting snow |
作者 | 木瀬樹 |
掲載誌 | BEAST 2024.02 |
ページ数 | 28 |
ヒロイン | 雪(委員長) |
竿役 | 氷野新 |
発射数 | 1 |
公式タグ | パイパン / JD / 処女 / 同級生・同僚 / 恋愛 / 羞恥 / 金髪・茶髪 |
修正 | 白抜き修正 |
いいんちょ
本作のヒロインは「委員長」キャラである。最初拝読した際にはこれがしっくり来ていなかった。この単語は何と広辞苑の見出し語には無くピクシブ百科事典には立項されている。広辞苑の見出しとしては「委員」ないし「委員会」であり、「団体などで、特定の事項の処理に当たる者として任命または選任された人」という定義である。つまり最低限の事務処理能力と責任感があれば誰でも出来るという意味である。しかし実際にはそこに抜きんでた才能や人脈がニュアンスとして含まれており、いったん委員長として認識された人は次回任期でも別の場でも委員長として推されがちで、結果(望むと望まざるとにかかわらず)ずっと何らかの委員長をやり続けるハメになることが多い。かたや立候補や推薦を要する「部長」「生徒会長」ほどの専門性やカリスマ性、何よりセルフプロデュース感を具現化したキャラとはまた違い、裏方的な縁の下の力持ちのような真面目モブキャラとしての扱いも受ける。これらを混ぜ合わせて煮詰めた結果、ピクシブ百科事典では「黒髪・三つ編・眼鏡」というキャラがベタな委員長キャラの典型例とされている。ベタ委員長というワードに女性であるという含意は必ずしも無いと思うのだが、「三つ編み」を取ったものが男性委員長のテンプレと言えるだろう。しかしピクシブ百科事典でも記載の通り、実際の委員長キャラは思いのほかこのテンプレには則っていない。学校生活の原体験にはあまたの委員長がいるのだが、よほどの押し付け合いでない限りそれなりに目立つ人気者が選ばれる傾向がある。本作の雪ちゃんも上記テンプレには一つもかすっていないのだが、整った容姿と面倒見の良さが伝わってくる。口調から育ちの良さも感じられるだろう。氷野新という問題児と並べた時にやはり委員長キャラというのは読むほどにしっくり来る。
飴降って雪解ける?
コメントでも指摘があるように、本作には木瀬樹先生の過去作のキャラが友情出演している。「飴降って地固まる」(BEAST 2022.11)の未玖ちゃんと昴くんだ。舞台設定など似たような展開なのだが「おっぱいが最近でっかくなった未玖に対して昴がよそよそしい態度をとるので押し倒した」という率直に意味不明なテーマだった。作中で未玖自身が事後に「傍から見たら私達…ただのバカップルじゃん…」と言っている、その通りである。ただ一貫して「男女の率直なコミュニケーションが扉を開く」というのが木瀬樹先生の作品を貫くポリシーであり、その先駆者として本作の二人に警句を垂れている。昴にせっつかれ新は嫉妬の炎に軽く焼かれる。勢いのままに委員長へチャットを飛ばす。講義中のチャットに対して真面目にいなす委員長だったが、10時52分「夜飯いかね?」という唐突な誘い文句に即レスが止まる。レスが無くなった事に若干の後悔をみせる新だったが、10分の間に逡巡と気持ちの整理をつけた委員長は11時02分に「いいよ」とだけ返した。
鰐民からのDoDo
そこそこ賑わいのあるモールの中にあるらしい居酒屋「鰐民」。名前のわりにしっかり個室が用意してある。18時待ち合わせのところ13分前にもう待っている新。自分から誘ったという形を気にしつつも、あくまでネタとして流されるだろうと高をくくっていた。委員長もまた学校終わりにもかかわらず一旦帰って勝負服に着替えてくるほどテンションが上がっていた。面食らう新。そして勢いで誘われた体の委員長も、あの新が自分のためにわざわざ個室の予約を取っていたという事に驚く。9ページ、酒の入った二人は率直に上記の驚きを口に出し、「相手のことが気になっている」ことまで吐露する。すっかり出来上がってトロ顔の委員長を見て、新は「Hotel DoDo」に誘う。そのつもりではなかった委員長はラブホ前の道端にもかかわらず激昂する。男前の新は性欲を滾らせてはおらずここで穏便に矛を収めようとする。しかし委員長もそのつもりがなくても後へ引く気はなかった。またしても妖艶な空気のなか二人はホテルに部屋を取る。
欲しかった言葉
< p>手探りで高まっていく二人。22ページ、いよいよというところで新は何かを口にしようとするが言い淀む。それを察した委員長は、委員長らしく、語彙力と度胸の足らない問題児に手を差し伸べる。「……好き」、ね、これが貴方の言いたい事でしょう? 自信と慈愛に満ちた告白だった。そして同時に、「好き、という返事は要らないわよ」という新への問いかけであった。本稿でもあえてヒロインを委員長呼びし続けてきたのだが、26ページ、新は彼女が冒頭1ページから、おそらくそのずっと前から求めていた言葉を贈る。「…雪っ」、その呼びかけと同時に二人は絶頂を迎える。
飴降って雪固まる
本作タイトルは「雪解け」という意味だが、本作のテーマは実際はヒロインの名前「雪」呼びに対する強い憧れだった。事後、新は再び委員長呼びに戻すのだが、ヒロインはにべもなく「雪って呼んで」と返す。1ページとの違いは、「雪」と呼んでもらえるヒロインの揺るがない自信、そして照れながらも「雪」と呼ぶ新、それに満面の笑みを返す雪ちゃんの充足感だ。委員長は夜に雪となり、二人の熱さによってトロトロに解け、翌朝「雪」として熱い絆で強く結ばれたのだ。気象現象的に言うなら圧雪でありアイスバーンである。本稿執筆時(1/26)は奇しくも北陸・北日本で大雪に見舞われた直後で、路面の凍結や交通機関の乱れに警戒が必要だそうだ。そんな日はカップルなあなたもシングルなあなたも、本作のような甘い作品で暖まって頂ければ幸いだ。
あらすじ
氷野新は腐れ縁の雪のことを「委員長」と呼んで頼みごとをする関係だった。新に対して常にツンケンした態度の委員長だったが、「気が付いたら他の男に取られてるかもよ」という友達の一言から飲みに誘うことにした。意外にも可愛らしい格好に着替えて現れた雪と、雪のために個室の予約まで入れた新。調子のくるった二人は勢いでホテルに行ってしまう。
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