(シ)は幸せよ [punk] 病めるときも健やかなるときも、(シ)がふたりを分かつとも (ゼロス #141)

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タイトル病めるときも健やかなるときも、(シ)がふたりを分かつとも
作者punk
掲載誌ゼロス #141
ページ数38
ヒロイン岡田香夏
竿役連城艸太
発射数1
公式タグショタ / フェラ / ファンタジー・SF / 中出し / 女性上位 / 姉 / お姉さん / 童貞 / 背徳・インモラル / 貧乳・微乳 / 逆転なし / 陰毛
修正白抜き修正

本日はゼロスから、鬼才punk先生の作品をご紹介したい。ページ数もさることながら、例によってタイトルが長い。しかも深い。

普段はあらすじを追いつつ感想を挟んでいくのだが、本作は末尾にあらすじをまとめた。ネタバレ前提の考察のみ書き連ねたい。未読の方は先に読んでいただきたい。

Ἀνδρομέδα

本作タイトル「(シ)がふたりを分かつとも」で分かたれているものが3つある。1つずつ話を進めていくためにまずアンドロメダの話をしたい。本作でいうアンドロメダはM31とも呼ばれるアンドロメダ星雲のことだ。地球が属する天の川銀河とよく似た渦巻形星雲であり、250万光年離れている。この名前は銀河がアンドロメダ座の膝あたりにあることから呼ばれている。アンドロメダは古代ギリシャの神話に登場する王女で、親の不始末のため海の怪物の生贄にされ裸で海岸の岩に縛り付けられるという目にあっていた。たまたま通りかかった英雄ペルセウスにより怪物が討伐され、アンドロメダは救出される。アンドロメダはペルセウスと結婚するのだが、彼女は叔父と婚約関係にあった。結婚式に乱入してきた叔父もまたペルセウスの持つメデューサの首で石に変えられ二人はめでたく結婚。たくさんの子孫に恵まれたという。その光景を見たアテナによってアンドロメダは星座になるのだが、粋な計らいにより岩に縛られたポーズで空に輝くこととなった。いろいろツッコみどころの多い彼女である。

ベジ

続いて触れねばならない、本作ヒロイン香夏の症状である。もちろん詳細は語られていないが、次のような描写がある。意識はあるが随意筋が動かせない「閉じ込め症候群」という状態であれば、経口による食事は難しい。またこの場合は意識は清明であるため瞼の筋肉などで意思表示ができる場合がある。

  • 艸太の呼びかけに応じない。応じた形跡もない。
  • 一貫してベッドに仰向けで横たわっており姿勢を変えられないように見える。
  • 酸素吸入はしておらず自発呼吸は出来ている。
  • 介助のもとに食事の経口摂取が出来ている。

この症状はいわゆる「植物状態」と呼ばれる。覚醒はしており、生命維持に必要な脳幹の機能は残っているものの、意識が回復していない状態を指す(部分的に意識がある場合は「最小意識状態」と呼ばれ、何らかの反応を示す)。原因は様々で、半数程度は1年以内に意識を回復するというデータもある。しかし現時点で有効な治療法は無く、本作のように年単位で意識を回復しない場合の見通しは決して明るくない。一方で「意識の有無」の診断は難しい。特定の刺激に対してfMRIなどで脳活動が見られる場合がある。しかしこれが患者の意識による「応答」である確証はなく、意思を汲み取れなければ結局意味を成さないのも事実だ。この部分に限れば決してフィクションでは無い、重い問いかけである。

時系列

本作は二つの物語が交錯している。時系列については示唆が無く私の想像である。一つが艸太そうたと香夏、そしてカナが織りなす本作の主テーマ。その傍らに連城家の悲劇がある。「連城」は父が勤める研究室の名前であり艸太の苗字である確証はないが、以下その仮定で進む。香夏の名前はベッドサイドに「岡田香夏」と明記がある(7ページ)。しかし14ページで母親は担当医から「森下さん」と呼ばれている。下記7の想定で苗字が変わったと解釈するが作中での示唆はない。

  1. 連城艸太の幼少期に、母が亡くなる。
  2. 最愛の妻を亡くした連城父は、自らの研究室で「連城母の降霊」に没頭する。
  3. 母を失い父が不在がちな艸太を見かねた岡田香夏が艸太の面倒を見る。
  4. 香夏は艸太と「約束」する。
  5. 二人は成長し、艸太は香夏に女性としての魅力を感じる(勃起を知る)
  6. 香夏に何かが起き、植物状態となる。
  7. 香夏母が離婚。香夏とともに旧姓「森下」に戻る?
  8. 別れを悟った香夏の意識がカナを呼び出す。
  9. [本作時間軸] 艸太とカナが二度遭遇する。
  10. 香夏を母が引き取る形で転院が決まる。
  11. 艸太とカナが空を飛び、空になった病床で想いを遂げる。
  12. 連城父が母の降霊に成功する。
  13. オチ

1, 2, 12は本作のスジとは直接関連が無い。しかし連城艸太に宿っているらしい強い思い、そして執念を間接的に描いていると言える。

香夏と艸太の約束

分かたれているものの一つは連城家の両親である。ここは背景が全く描かれておらず、父がなぜそこまで母との更新に執着するのかは不明である。しかし本作において確実に「死」の側に居るらしい母親の存在が、生と死その狭間に揺蕩う香夏の境遇を克明に見せている。本作における「約束」は二つある。一つが母の死を悲しむ艸太に香夏が与えた約束だ。17ページと20ページ。

泣くな 艸太 いい子にしてろ 笑ってろ –そしたら
お姉ちゃんはアンドロメダ星雲の宇宙人と友達なんだ 艸太がゼッタイゼツメイのときいっしょに助けてやるよ でもいい子にしてないと 悪い宇宙人呼んでおしおきだぞ

アンドロメダから来たカナという宇宙人が、香夏とこの時点で友達関係にあったかは分からない。多分違うのだろう。しかし本作20ページ、いや冒頭からカナはこの約束のことを識っていた。その上で、カナは泣きながら自らを「悪い宇宙人」と称した。そう、カナは艸太が「ゼッタイゼツメイ」でもなく、助けてあげられるわけでもないことを分かっていた。自分に出来ることは、聞き分けの悪い艸太をお仕置きし、約束ごと香夏とのしがらみを分かつことだった。11ページの時点では。しかし16ページ、カナは艸太が自ら「救いが無い」ことを理解し、香夏との約束に従って断罪されることを自ら告解するのを聞いた。ただ香夏の生き写しに泣きじゃくるだけだった艸太が、地球でのたった一日で全てを受け入れたことは異星人のカナにとっても深い感動を与えた。

香夏とカナの約束

そして本作もう一つの約束と分かたれがこちらである。33ページ。

身体も 脳みそも 過去も未来も感情も記憶もこの存在ごと なにもかもいらないから –そのかわりに どうか 艸太とのこの一瞬をください

病床に伏したままの香夏にとって、自らの存在は成仏出来ない地縛霊のようなものだった。自らの回復を願い毎日会いに来る艸太、日々成長する艸太を縛り付けてしまっている自分に憎悪した。そして本作で一カ所黒塗り修正されているセリフ「おとなになってく艸太がたまらなく欲しかった」(黒塗り内は私の想像)。意思のある存在としての自分の死期を悟った彼女は、生物として女として愛する艸太とやり残した事を全宇宙に願い、カナによって聞き届けられた。香夏とカナは交信を重ねた。カナが出来ることとして、香夏の依り代として艸太に疑似体験してもらうことに決まった。恐らく香夏は条件として「艸太が香夏を女として欲してくれていること」「これにより艸太と香夏の約束が果たされ、関係が清算されることを艸太に理解させること」を確認するよう願った。そして願いは、約束は果たされたのだった。ゼロス同月号にてへのえの先生が「第三種接近遭遇における相互理解の可能性について」というタイトルの作品を発表している。これはUFOに関する情報の分類で「第一種 = UFOの目撃」「第二種 = UFOによる痕跡の記録」の次に来る「第三種 = UFOの中の人との遭遇」を指す。こちらのヒロインは(多分)宇宙人では無くただの変態である。対して本作では宇宙人との遭遇どころか中出しまで敢行している。仮に宇宙人と地球人との間に子が出来たら「第七種接近遭遇」(諸説あり)ということになる。

シ

ではそろそろ(シ)について考えたい。本作ではアンドロメダの宇宙人であるカナが地球現地語の認識に不具合がある点をカッコ書きしてある。しかしカッコ内は地球語に寄せてあるため、本作タイトルの(シ)は地球語における何かである。物語に沿って思いつくまま上げていく。

「偲」幼くして亡くした母を偲ぶ想い。

「師」大学教授である連城父、妻への愛にとりつかれた彼は「病んで」いるのかもしれない。

「子」父にとっては子との別れ。これが出発点である。その結果としての香夏との触れ合い。

しかし何らかの不運により、彼女の「四・肢」は意識と分かたれてしまった。

「支」自らの拠り所を失った艸太は香夏の回復を心から願う。

「氏」しかし病室での日々も、母の離婚により、苗字と共に別れの日が近づく。

「詞」口をも閉ざされ言葉も操れなくなった彼女は宇宙の果てにまで願いを飛ばした。

「使」ままならない彼女はアンドロメダから来たカナに全てを託した。

「姿」カナは香夏の写し身として艸太に遭遇する。

「雌」カナは男女のまぐわいを通じて、艸太に伝えた。

「思・志」それは言葉ではない、香夏から艸太への悲喜交々、万感の想いだった。

「試」そして全てを乗り越える連城父の試みは実を結んだ。

「此」たとえ二人が此岸と彼岸に分かたれようとも、想いは通ずるという希望をのこして。

分かたれた(シ)は上のどれかかもしれない。しかし本質的に分かたれたものは上で説明したとおりだ。艸太から見て分かたれたものは他ならない「姉」である。そして香夏から見て分かたれたもの — これが本命だと思う — が、カナに全てを託し艸太と結ばれた後に消え去ってもいいと念じた「私」である。つまり「姉」=「私」でもある。カナは見事なまでに、残酷なほどに香夏を演じきった。いや、身体を捨て去った香夏にとってカナは「私」と同一なのだろう。しかしカナは艸太にはあくまで「香夏ではない」と言い張った。つまり「私」は未だに香夏の身体と共にあり、艸太と、カナと永遠に分かたれることを望んだのが「私」なのだ。

(シ)は幸せよ

事後、艸太はカナに「あとどれくらいいられるの」と聞いた。カナははぐらかしたが、この質問は「姉の意識が此岸から消え、カナとの約束が満たされるまで」の期間を問うたと解釈出来る。と同時に、艸太の父は意識も生体反応も消え去ったであろう母との交信に成功したことが示唆されている。「身体も 脳みそも 過去も未来も感情も記憶もこの存在ごと」亡くなった先でも、いやそうなって初めて香夏は交信可能な存在になり得ると艸太は理解した。つまりカナと「私」との約束は永遠に果たされず、「この一瞬」もまた永遠である。艸太がカナに「うそつき」とほくそ笑んだところで本作はオチとなる。

改めて言うまでも無く、このテーマはエロ漫画としては普通に重すぎる。しかし男と女が生殖するという行為は文字通り一つの命より重いとも言える。それがpunk先生の伝えたかったことかは計り知れないが、男性向け商業エロ漫画という場にまだまだ可能性があるということはよく分かった。まだまだ語り尽くせないが、本作に出会えて良かったと思っている。

あらすじ

ある夜、寝静まった艸太くんは憧れの香夏お姉ちゃんのビキニ姿と遭遇する。艸太くんは寝たきりになっているお姉ちゃんの元気な姿を見れたことに戸惑いながらも喜びを隠せなかった。次の夜もスク水姿で現れ謎の言葉で話す香夏に艸太は嬉し泣きする。お姉ちゃんと話が出来たことを病院へと喜び勇んで報告しに行った艸太は、彼女が遠いところへ転院するという事実で叩きのめされる。ぬか喜びに泣き崩れる艸太のもとに彼女は三たび現れ、二人は空へと舞い上がる。

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